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第107回 病院で死ねない時代がやってきた

おおくぼ戸山診療所 師長 井口敦子

おおくぼ戸山診療所の周囲には、国立国際医療センターをはじめ、大病院が多くあります。長年通院されていたにもかかわらず、ここのところ、90歳を過ぎた高齢の患者さんの、訪問診療の目的での紹介が増えています。
大病院の役割もあり医療側としては必然的な流れとはいえ、長年通っていた病院に対する信頼や、検査装置のない在宅での診療に対する不安などもあります。患者さんやご家族は、“見捨てられた感”を少なからず抱いている場合があります。「病院では死ぬことができない時代」を実感する毎日です。

「もう救急車は呼ばないで」と病院から言われて

この間も通院している病院から「もう救急車は呼ばないで…」「まずは診療所の先生に診てもらってから」と言われ、診療所に繋がった92歳のAさんと96歳のBさんがいます。受け入れる私たちは、医療情勢の矛盾を理解したうえで、見えないプレッシャーを感じながら患者さんと接しています。
Bさんの場合は、寝たきり状態で、長年通院していたD病院から退院して1週間だったため、違う病院に紹介をしました。ご家族がどう思っているのか、はたして、対応がそれでよかったのか悩み、訪ねてみました。ご家族はご自宅で看取る覚悟を固めつつありました。転院した病院に、退院して自宅で看取ることを伝え、診療所のバックアップで退院後2日目に亡くなられました。このように患者さんとご家族が安心して自宅で療養できるよう誠意をもって対応し、信頼関係が少しでも築けるように努力しています。

より良い最期を迎えるために

経口摂取ができなくなった患者さんには胃ろうを造り、栄養状態を維持する方法で多くの方が生活しています。しかし、90歳を超えてから胃ろうを造ることを選択する患者さんはほとんどいません。そうした方々にとって、口から食べられなくなったときが寿命となります。93歳のCさんも、胃ろうの選択をしませんでした。しかし、それが原因で亡くなることは、家族にとって若干の違和感や後ろめたさを覚える場合が少なくありません。
もちろん、訪問しながらその違和感やその背景にある、生死感(後ろめたさ)などを解決し、患者さんにとって、ご家族にとって、より良い最期に導いていくのが私たちの役割なのだと実感しています。昔は自然な生き様だったのに、今は逆に不自然さを感じてしまうのは、医療の進歩や、命の重みがより大きく感じられるせいなのでしょうか?

これからの在宅医療、診療所の役割

2025年には4人に1人が75歳以上となる超高齢社会になるといわれています。病床数が足りなくなり、入院期間は短く、入院のハードルも高くなっていくでしょう。政府は、病院から診療所、在宅療養へと推進する制度に転換する政策を打ち出しています。少し前までは病院で亡くなるのが当たり前で、患者さんおよびご家族の希望が明確な人だけが自宅で最期を迎えていました。しかし、これからは昔に戻って、多くの人が自宅で亡くなる時代を迎えようとしています。
この間新規に訪問を開始した患者さんを通して、今後の日本の在宅医療が見えてきました。しかし私たちは、いつの時代も患者さんやご家族の思いに寄り添って、不安なく、後悔なく最期を迎えられるように支援していきたいと思います。

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東京勤労者医療会は、東京都・千葉県・埼玉県の3つの病院を中心に、診療所、訪問看護ステーションなどで、急性期から精神・リハビリ・在宅まで、患者さんの療養を支えています。

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